巣園流の目的

巣園流目的-1水泳は、河川や海で人間生活と共に自然発生的に成長したと考えられている。そして水泳は近代スポーツとして発達するにつれて、速さを重視するようになっている。しかしそれでは、人間生活における「泳ぐこと」の本質から遠ざかり、学校教育の中で必要な普遍性に欠ける。そこで、本校では、昔から伝えられる日本泳法を近代泳法の中に生かし、両方の長所を一体として泳ぎを体系化した。 これを巣園流と名づけ、泳法の練習を内容とする臨海学校を創立当初の大正時代から毎年開設して来た。 そして、訓練の最終段階を遠泳においたのである。今日まで社会情勢により、多少の取扱い上の変動があったが、その本質をはずれることは無かった。 すなわち、現在の必須教科目(中学生)となっているのは、この伝統の歴史によってである。 水泳が青少年の心身の発達に極めて良い効用を発揮することは良く知られている。いわゆる臨海学校では生理的、肉体的発育に力点がおかれ、その場における精神的訓練に配慮されていないことが多い。 しかし、本校では、教育の一環として巣園流水泳学校を実施するにおいて、海岸という大自然の教場の特質をフルに活用する心身一如の全人教育であるべきだと考えている。 EX-0001日頃の学校生活よりも、はるかに集中的で、又、多面的配慮を伴った高度の学校集団活動なのである。配慮に欠ければ、生命の安全を脅かしかねず、泳ぐこと以前に学校教育として失格であろう。 巣園流は、生理的、肉体的発育を決して否定するものではない。むしろ、積極的にその効用を認識し、その効用のすべてをねらい、確実なる効果を「神の万人への恵み」として感謝を以って拝受する心構えを力説している。 それと共に各種の巣園流技術の習得、練磨に励み、水と一体になって泳ぐまでの「得業士」の水準を目指すことを訓練目的としている。 その訓練課程の区切りに、大海を長時間泳ぐ遠泳体験を重ね、大自然の中での自己との戦い、真の友情や、人との協力等、精神面の体験的成長に大きな期待をかけている。 日頃、体験したことのない合宿生活による集団訓練は、一層それ等の効用を増すものと確信をもってこの巣園流水泳学校は続けられて来た。 それらの実現に、OBの諸君が毎年助手として協力してくれるのも一つの特長である。 この行事に一貫して使用している六尺の水褌(指導者は黒、生徒は白、サラシ木綿)は、古来日本泳法のユニフォームとして、その歴史と共に歩んで来た。そればかりでなく、海の訓練に伴う危険からの救助に極めて有効性を持っている。 また、最終目的の遠泳に当たっては、固く、キリリッと締めることによる独特の精神的緊張感は心の動揺を抑え、長丁場を泳ぐ際の運動を軽快にし、万一の救助に際しては文字通り「命綱」となり、寸刻を争う場合などには、これ以外頼るところの無いものである。 安全で、男らしく、かけがえの無いユニフォームである。

出典:『巣園流50周年誌』